随分、昔の話である
ある夏の某日、わたしは渋谷のバーにいた
今日は5つ年下の会社員の彼と、初めて会う日だった
駅で落ち合い、細い路地へ案内された其処は
ひっそりと佇む大人の空間だった
重厚なドアを開け、店内へ…
あまりの緊張のせいか、もう1人の自分が耳元で囁く
「ねぇ、信じられる?北海道に住んでいた、タダの
ネーチャンのアンタが、今、渋谷のこんなお洒落な
バーに居るのよ」
彼のスマートな語りに乗せられ、
カクテルを次、次と注文する
笑う
二人とも笑う
隣の酔客も笑っている
静かに賑やかだ
目の前には、感動の雫で出来たカクテルが虹色に光る
「カミカゼ」
彼が注文する
「飲ませて…」
味は覚えていない
美味しかった気がする
今宵、渋谷のバーでボンヤリ頬杖をつく
地球上には2人しかいない気がした
この世には「不思議」や「運命」や「縁」が
絡み合って、存在している
わたしはその「偶然」を、目の当たりにし、
まるで万華鏡を覗くかの如く
クルクルと目を回す
唯、唯、目を丸くするばかりだ
彼とはそれきり会っていない
何処で何しているかもわからない
ハッキリしていることは、
あの日、楽しくてあっという間だったことと、
こんな出会いがあるなら、
少しでも長生きしたいと思ったこと
自分の命を、他人の命さえも愛しく思えた2時間半
此処は渋谷
わたしはまだ、万華鏡を探している